本研究計画では、概日時計中枢である視交叉上核に発現している神経ペプチドであるガストリン放出ペプチド(GRP)の行動リズム形成における役割の解明を目指している。本年度は、まずはじめに、BACを用いたGrp-CreマウスとCre依存的に蛍光タンパク質であるtdTomatoを発現するトランスジェニックマウスを交配させ、その蛍光タンパク質の発現を観察した。同時に、Grp-Creマウスの視交叉上核にCre依存的に蛍光タンパク質とチャネルロドプシンの融合タンパク質を発現するウイルスベクターを投与し、チャネルロドプシン-EYFPの発現パターンを観察した。いずれも、マウス視交叉上核において蛍光タンパク質の発現が観察されず、BACトランスジェニックマウスでは内在のGrp遺伝子の発現を模倣できていないと考えられた。そこで、Grp遺伝子の開始コドンにiCre遺伝子を挿入したノックインマウスを導入した。このマウスにおいて、Creの発現を確認したところ、視交叉上核だけでなくGrp遺伝子が発現しているとされる大脳皮質などにも多くの発現が観察された。視交叉上核におけるtdTomato発現細胞の多くはGRP抗体によってラベルされた細胞と同一であったことより、Grp-iCreノックインマウスは今後の解析に使用できると考えられた。さらに、SCNのGRP神経がどの領域に軸索を伸長しているのかを調べたところ、睡眠状態に影響を及ぼすとされる視索前野や主要なSCNの投射先である室傍核に投射が観察された。これまで、SCNのGRP神経はSCN内において、光情報を他のSCN神経に伝達する役割が示唆されてきたが、今回の研究により脳の他領域に神経連絡を行い、概日時計出力としての役割も担うことが明らかになった。
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