研究実績の概要 |
本研究は、多系統の遺伝子改変マウスを宿主遺伝子変異モデルとし、飼育環境を統一したマウスの腸内生態系をオミクスの手法を用いて網羅的に解析することで、宿主遺伝子変異が腸内生態系に与える影響を、横断的かつ定量的に評価することを目的とした。昨年度は、統一環境下で飼育した遺伝的に異なる10系統(野生型マウス1系統, 遺伝子改変マウス9系統)の成マウスを選抜し、系統や性別、飼育室、飼育ケージ等の違いに基づき26群に分けた121匹より糞便サンプルを採取した。本年度は、16Sメタゲノム解析の手法を用いて、得られた全糞便サンプルの細菌叢を解析・比較した。各糞便サンプルよりDNAを抽出し、16SリボソームRNA遺伝子断片を増幅後、次世代シーケンサーを用いて全配列を解読した。得られたデータは、情報解析パイプラインを用いて処理・解析し、各群間における細菌叢組成を統計学的に横断比較することで、糞便細菌叢を変動させる宿主遺伝子変異を探索し、その程度を検討した。野生型マウスを含む7系統は、性別、飼育室ならびに飼育ケージの違いに拘らず、類似した細菌叢を有していた。すなわち、同一施設内において、同一の餌ならびに水にて飼育したマウスの糞便細菌叢は、極めて安定していることが明らかになった。興味深いことに、前述の安定した細菌叢とは著しく異なる3つの遺伝子変異系統を発見した。これらの系統はそれぞれ独立にクラスタリングされたことから、系統毎の変動の度合いを定量化することができた。すなわち、腸内生態系の変動に影響する宿主遺伝子変異をスクリーニングし、その程度を系統横断的に定量比較することに成功した。
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