本研究は終末期(人生の最終段階)における「患者の自己決定」を支援するための哲学研究として計画された。①30年度も中長期的に栃木医療センター「自己決定支援マニュアル」作成を念頭に置き、月一回、緩和ケアチーム定例カンファレンスにおいて「医療倫理勉強会」を継続した。②医療者との意見交換に通じ、「自己決定支援」問題に関しては、医療者と患者との関わりについての問題と共に、労働環境の問題、医療チーム内の連携の問題が重要であることが改めて示唆された。②-2 生命倫理学の概念「自己決定」は、医療現場ではときに非現実的な言葉であり、終末期の自己決定(あるいは、旧来のリビングウイル)にかわって、ACPを追究する必要性が明らかになった。③ACP普及のため、潜在的患者としての若年層向けの死生学教育の必要性から、研究協力者の同センター村上恵理医師、千嶋巌医師と共に、小5から高校生までを対象とした「死生学教育」の試み(18年8月「お医者さんといっしょに親子で考える生老病死 とちぎこども未来創造大学」)を実施した(その成果は村上が同年9月国際アジア放射線腫瘍学会にてポスター発表)④哲学文献研究として、日本哲学会77回学協会シンポジウム「生命とは何か」に登壇し、ヘーゲルおよびドイツ観念論における「生命」概念に関する論考を発表した。⑤宇都宮大学異分野融合研究助成との共同企画において「医療におけるケアを考える」講演会を実施。医療者を対象とした哲学と医学のコラボ研究の機会とした(榊原哲也先生「医療ケアの現象学―患者をトータルにみるとはどういうことか」、岡島美朗先生「キュア(医療)とケアのあいだ-精神医学と緩和ケアの経験から」)。⑤-2当講演会参加者を対象に「地域医療」アンケートを実施し、医療や医学に限定されず哲学あるいは広く「死生学」に関する研究の場が地域で求められていることが明らかになった。
|