世界初の遺伝子治療薬となるGlybera(アデノ随伴ウイルス)が認可されたことをはじめとし、遺伝子を用いた難治性疾患の治療が現実のものとなりつつある。なかでもmRNAを用いた遺伝子導入は、遺伝子導入効率や安全性の面で優れていると考えられている。我々は、核酸ベクターの構成材料としてSS-cleavable and pH-Activated Lipid-like material(ssPalm)を開発してきた。我々は、ビタミンE足場型ssPalmEを用いることで、脳内のアストロサイトや神経細胞に遺伝子を導入できることを見出した。さらに、オレイン酸を足場とするssPalmOが生体適合性に優れていることを見出した(論文投稿中)。我々は本研究でssPalmOの更なる構造改変を行い、高い生体適合性と遺伝子導入効率を両立可能なmRNAキャリアの創製を目指した。 ssPalmOの直鎖アミン構造改変しssPalmO-P4C2を合成した。さらに、ssPalmO-P4C2の部分構造を改変し、新規骨格を持つ第三世代ssPalmOを開発した。ssPalmO-P4C2は潰瘍性大腸炎モデルであるDSS腸炎マウスの大腸で、ssPalmOに比べ10倍以上高い遺伝子発現活性を示した。この際、肝臓、脾臓、腎臓、肺、心臓に対して有意に高い遺伝子発現活性を示した。更なる改変で得られた第三世代ssPalmOは、分泌タンパク質であるエリスロポエチンのmRNAを尾静脈から導入し血中濃度を解析したところ、さらに100倍以上高い遺伝子発現活性を示した。また、本遺伝子発現活性は市販のトランスフェクション試薬などと比較して有意に高いことが明らかとなった。また、第三世代ssPalmOを投与してから24時間後の血中AST/ALT値は正常域であったことから、本粒子は高い生体適合性を有することが示唆された。
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