H30年度は,ブラインド型アダプティブアレーを用いた干渉抑圧方式の拡張を中心に,以下の検討を行った. (1) 複数のセル(基地局がカバーする領域)が存在するMassive MIMOシステムにおいて,これまでに,多数のアンテナ自由度を活用し上記ユーザ間干渉/セル間干渉を同時に抑圧可能とする手法を提案した.本年度はその改良手法を検討した.まず,アンテナ素子数よりも少ないビームを形成する事前処理を適用した.これは,干渉抑圧への不要な自由度の消費を抑え,希望信号の利得を高める効果を得るものである.また本方式はブラインドアルゴリズムに定包絡線アルゴリズム(CMA)を用いていたが,これは振幅値が一定であるQPSKにのみ有効であり,16QAM以上の複数の振幅値を有する変調多値数への対応が必要であった.そこで適用するアルゴリズムの変更等を行い,16QAMにおいてもこれまで同様に高い干渉抑圧効果を実現した.
(2) CMAや独立成分分析(ICA)の動作原理に立ち返り,これらの動作領域を拡張する検討を行った.CMAやICAは信号の非ガウス性に基づきウェイトの最適化を行う点で共通している.到来信号がいずれもQPSKなど同様の変調信号である場合,その統計的性質は似ていることから大きなレベルを持つ信号からその性質を抽出し,ウェイトの最適化に至ることが考えられる.そこで,意図的に信号の性質を改変する処理として時間領域シンボル拡散の適用を提案した.任意の拡散行列を送信する希望信号にのみ乗算し,受信側においては希望信号と干渉信号が畳された受信信号に対して逆拡散処理を施すことで干渉信号のみを拡散することが出来る.拡散処理は信号の性質をガウス分布へと近づけることから,希望/干渉信号のレベルに関わらず適切に希望信号のみを捕捉し,干渉を抑圧可能となる.シミュレーションにより,提案方式の基本的な有効性を確認した.
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