研究課題
現在、心筋症の治療法は心不全や致死性不整脈などの臨床症状のみに依存する形で画一的に選択されている。しかし、心筋症症例の予後は多様であることが知られており、その多様性を既定する因子は不明なままである。本研究は心筋症ゲノム解析、心筋生検1細胞解析に、予後を含めた詳細な臨床情報を統合することにより、新たな心筋症予後予測軸の開発とリスク層別化を確立し、心筋症治療におけるprecision medicineの開発を行うことを目的とする。まず既知遺伝子スクリーニングの方法として心筋症を含む遺伝性心血管疾患の原因遺伝子(95遺伝子)を網羅的に解析する疾患解析パネル(ターゲット領域の99.4%をカバーしている)を新たに作成し、次世代シークエンサーを用いて解析を行い、治療反応性の予測可能な遺伝子変異を同定した。また、マウス・ヒト心臓より心筋細胞を単離し1細胞ごとに全遺伝子発現量を定量する1細胞トランスクリプトーム、さらに心臓組織切片を用いた1細胞レベルで1分子RNAを定量する1分子RNA in situ hybridization (smFISH)を確立した。その後バイオインフォマティクスにより心不全進展過程に出現する心筋細胞を分類することに成功し心筋細胞を1細胞レベルで詳細に解析することが可能となった。さらに心臓組織は心筋細胞だけでなく、線維芽細胞・血管内皮細胞・炎症細胞等の非心筋細胞も存在し、個々の細胞が協調し心臓の恒常性を保持している。そこで非心筋細胞1細胞解析、心臓組織1核解析も行い、心筋症予後予測に応用することにも取り組んでいる。
2: おおむね順調に進展している
拡張型心筋症、肥大型心筋症患者の詳細な臨床情報を集積したうえで既知遺伝子の網羅的スクリーニングを施行した。TTN遺伝子変異をもつ拡張型心筋症患者は補助人工心臓など治療に反応し心収縮能が改善することを発見した。一方、LMNA遺伝子変異をもつ拡張型心筋症患者は補助人工心臓など積極的な治療を行うも収縮能は改善せず予後不良集団であることを見出した。これらの遺伝子変異が予後予測因子となることを日本人患者集団で初めて見出すことに成功した。さらに移植、補助人工レシピエントの心臓片より心筋細胞を単離し、1細胞RNA-seqを行うことに成功しており、心筋症患者登録も予定通り進めている。
特定の遺伝子変異をもつ心筋症患者の予後予測を行うことが可能なことが示唆された。移植、補助人工レシピエントの心臓片より心筋細胞を単離し、1細胞RNA-seqを行うことに成功している。ゲノムデータと心筋細胞1細胞解析のデータの統合を行う。レシピエント心臓組織は著明な繊維化も認められる。そのため心臓の恒常性を正確に把握するためにも非心筋細胞解析にも取り組む。そこで、心臓組織1核解析を確立し心筋細胞・非心筋細胞を同時に解析する手法の確立も進める。
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Scientific Reports
巻: 8 ページ: 1998
10.1038/s41598-018-20114-9
https://www.genome.rcast.u-tokyo.ac.jp/3807
https://www.genome.rcast.u-tokyo.ac.jp/3798