生活習慣病、癌、加齢などによる酸化ストレスの亢進は、リン脂質やコレステロールエステルなどを構成する多価不飽和脂肪酸の酸化を促進し、反応性の高い不飽和アルデヒド分子を生成する。アクロレインをはじめとするこれらの分子種は、健康を害する危険因子であり、酸化ストレスの良いマーカーになりうる。そのためこれらのアルデヒド分子の生成や分布を生細胞内で可視化する技術は、病態メカニズムの解明や、疾病・老化の予防に役立てるためにも重要である。そこで本研究では、アクロレイン分子の生細胞内イメージングを目指し、アクロレインと反応することで蛍光シグナルを発する小分子蛍光プローブの開発を行うことを目的とした。本年度はまずアクロレインと反応することが報告されているアリルアジド基の誘導体についてその反応性を検討した。分子内に電子供与基または電子吸引基を含む7種のフェニルアジド誘導体を合成し、アクロレインとの反応収率を比較した。その結果、いずれの誘導体においてもフェニルアジドを上回る反応性を示さなかった。また、昨年度からの検討により、当初予定していた分子構造(シアニン色素やニトロベンゾオキサゾールとフェニルアジドの結合体)においては、アジド基の安定性に問題のあることが懸念されていた。以上の結果を踏まえ、当初の分子設計を見直し、アクロレインとの反応基としてチオール基を用いた新たな分子構造の合成に着手した。新たな分子設計は、既知の類似化合物を用いた検討によって、アクロレインと反応することで蛍光シグナルを発することが推測できている。現在は目的化合物の合成を進めており、アクロレインやその他の不飽和アルデヒド構造をもつ脂質過酸化物との反応性の比較を計画している。
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