フィリピン大学民族音楽学センターアーカイブ(「マセダ・コレクション」)にて、1960年代-90年頃までに現在のコルディレラ行政区で収録された録音データのうち、「サリドゥマイ」と呼ばれる民謡および関連の音楽のデータを試聴し、分析を行った。当時は「サリドゥマイ 」というジェンルが文化カテゴリーとして明確には成立していなかった(Yoneno-Reyes 2011他)ため、名称の不一致が著しい。そのため、検索には細心の注意が必要であった。 資料の歌い手たちは、男声ソロ、女声ソロ、子供集団、女声集団、男女集団などで、ほぼ全てがア・カペラ。これらを現在残っている旋律と、現在消失している可能性が極めて高い旋律とに分けて分析した。 現在消失していると思われる旋律によるものの中には、呼唱応唱形式(call and response)のものもあり、これまでの研究で、文献および聞き取りから推測していたように(Yoneno-Reyes 2011他)、サリドゥマイ が掛け歌の伝統を引いていることを、実際の演奏の記録から確認することができた。これらの旋律は、4度跳躍が顕著、終止音が一定しない、ゆるい拍節的、などという特徴がある。また、テトラコルダが顕著に見られ、旋律全体で使われる音が五音であったとしても、五音音階による旋律、としてではなく、テトラコルダの組み合わせによる旋律、と認識することを提唱する。 現在まで伝えられている旋律は、より拍節的であり、使用される音のヴァリエーションが消失し、ほぼc-d-e-g-aに一本化し、3度音程とディアトニック的な音の動きが顕著で、終止音がcに統一化する傾向にあった。これらにおいては、ディアトニック化と定量化(拍子、音高、声質の)が同時に起きており、ドレミ化・拍子化したものが伝承されている。 本研究は、これは、西洋近代音楽の調性音楽の合理性ゆえの必然か、と考察する。
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