本研究は、19世紀フランスの作家バルザック(1799-1850年)の創作を同時代の文芸誌との関わりにおいて考察する試みである。本研究の対象とする1833年から1836年までの期間は、バルザックが文芸誌に向けた「コント」と題された短編作品の創作から意識的に離れ、『十三人組物語』(1833-1834年)『ゴリオ爺さん』(1835年)『谷間の百合』(1835-1836年)などの中・長編作品の執筆に舵を切り、「コント作家」から「小説家」へと自らの作家像を作り変えようとしていた時期にあたる。その一方で、バルザックと文芸誌の関係は継続しており、これらの中・長編作品もコントと同じように文芸誌を初出としている。本研究では、文学研究に軸足を置きながら、出版文化史研究の問題設定、手法を取り入れ、創作と出版の両面から文学作品にアプローチし、この時期のバルザックの創作が同時代の文芸誌といかなる関係を切り結んでいたのかを多方面から明らかにした。 本研究の主な成果としては、資料収集と研究発表をあげることができる。資料収集としては、フランス国立図書館での資料調査などを通じて、一次文献として1833年から1836年までの期間にバルザックが寄稿を行なった文芸誌を網羅的に収集することに成功したほか、古典的研究書から最新の研究まで、多くの研究文献を取り揃えることができた。研究発表としては、バルザック作品の読解分析を中心に、口頭発表、研究論文や一般書の執筆を通じて研究成果の公表につとめた。また、研究期間中には学会、研究会等に参加し、日仏両国の研究者との交流の機会を持ち、議論を行う中で研究の意義を再認識し、研究の重要性をさらに高めていく努力を行なった。
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