本研究課題は複数財が取引されるオークション環境において望ましいオークション制度の設計可能性を考察するものである.複数財オークションには,各個人が各々1財までしか財を得られない状況と,各個人が複数個の財を得られる状況が存在する.本年度は後者の状況を分析した.特に,財がどれも同質である状況に焦点を絞り分析を行った. 統一価格オークションは国債のプライマリーマーケットなどで実施されているオークションである.このオークションはシンプルで,人々が正直に行動する場合,効率性や公平性などの望ましい性質を満たすことが知られている.しかし,人々のインセンティブを考えると,統一価格オークションのもとで人々は財に対する評価値を過小に申告するインセンティブを持つ事が知られている. 統一価格オークションが用いられているいくつかの現実例では,オークションの参加者に比べ財の数が非常に大きくなっている.実際,国債のプライマリーマーケットでは巨額の国債が限られた数の銀行等に配分されている.本研究はこのような状況に焦点を絞り,統一価格オークションにおける人々のインセンティブを考察した. 分析の結果,オークション参加者の数に比べ財の数が十分大きい時,統一価格オークションにおいて人々が評価値を偽って申告するインセンティブは小さい事を明らかにした.また同様の結果は,留保価格が存在する統一価格オークションにおいても成立する事を明らかにした. 過去に得た結果と本研究で得た結果をまとめ,論文「Non-manipulability of uniform price auctions with a large number of objects」として発表した.本論文はゲーム理論の国際雑誌であるInternational Journal of Game Theoryに受理された.
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