この研究は、諫早湾干拓事業を事例とし、有明海沿岸地域における漁業者および、諫早湾内の干拓地における農業者と漁業者を対象として、開発事業の被害を、事業そのものによる利益や事業による損害に対する補償といった受益/受苦という観点だけからでは描ききれないものとして捉えなおすものである。これまで受益者/受苦者として捉えられてきた農業者/漁業者の生活のあり様の変化の実態を解明し、彼らが置かれている不合理な状況について分析するものである。 今年度は、諫早湾干拓事業の事例を通じて、漁業補償が漁業者の生活にもたらす影響、および補償を受け取ることの全体的な意味を解明することを目指した。その際に1)漁業補償という制度的枠組みの実施されてきた歴史的背景の解明2)漁業者にとって漁業補償を受けることの意味の解明の二点に力点を置きながら、インタビュー調査や資料収集、および参与観察を進めた。 これらの結果として、金銭的補償という枠組みが、事業の実施前と実施後で異なる取り扱いをされていることを明らかにした。特に事業実施後においては、漁業者が金銭的な補償を重要視しておらず、自らが漁業の継続ができる環境に回復させる方策を望んでいることが明らかになった。これは、金銭的な補償が漁業者の生活にとってサスティナブルな解決方法ではないではないことが事業完了後の経験からわかっているためであり、金銭的補償ではなく、根本的な漁場改善が望まれていることが明らかとなった。 また、以上の調査および分析の結果を踏まえて、国内研究会において研究発表を行った。
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