本研究の目的は人口動態を考慮にいれた階層間格差を捉えることにある.特に,本年度では格差の趨勢を社会調査データを用いて記述することが主目的であった. この目的はおおむね達成されたと考えられる.趨勢の記述は東京大学の白波瀬佐和子教授と東北大学の瀧川助教と共同研究で遂行した.社会階層と社会移動調査(SSM調査)に参画し,社会階層に特化した調査データを用いて,分析を行った.分析にはSong and Mare(2015)の指標を用いた.この指標は,通常の格差の指標である階層移動確率に出生力を掛け合わせたものである.分析の結果,男性には格差維持の傾向が,女性には格差拡大の傾向が確認された.これらの結果は,家族社会学会,日本社会学会で報告を行った.また,研究成果はSSM調査報告書に取りまとめられた. また,本研究のスコープの一つである結婚・家族の領域で3つの研究成果が得られた.一つは性別役割分業意識と結婚の意思決定を選好の進化モデルによって分析した論文であり,数理社会学会の雑誌『理論と方法』に掲載された.2つ目は同様に選好の進化モデルを用いて配偶者選択方法と晩婚化について分析したものでJournal of Mathematical Sociologyに掲載される.最後は家庭内の夫婦の親密性を相互行為に基づいて潜在クラス分析によって定式化・分析したものであり,東京大学社会科学研究所のSSJDAリサーチペーパーに掲載される.これらの知見や手法は,人口動態と階層間格差を捉えるためには利用される.
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