研究課題/領域番号 |
17H06597
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白川 俊之 東京大学, 社会科学研究所, 助教 (40805313)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 高等教育 / ジェンダー / STEM / 進路選択 / 性的分離 / 社会的不平等 |
研究実績の概要 |
研究初年度は、課題に関する先行文献を収集し、その整理を行った。男女による高等教育の専攻分離の研究について、海外ではパネル・データの使用がメインとなっており、大学在学中に男女の専攻分野の変化の方向や、自己イメージを中心とする在学時の意識と卒業後の進路(職業選択や大学院での専攻)との連関などについて、実証的な知見が蓄積されつつある。また、国内の研究では、文系、理系といった学問分野への男女の興味の差異が、ライフコース初期に形成されることが指摘されており、その背景としては親の職業やジェンダー観などの影響が挙げられている。ただし、ライフコースに沿って、同一の個人の内的変化をフォローした研究はなく、高等教育進学者のあいだでの男女の分離がどのようなプロセスで生じているかについては、不明な点が多く残されていることなど、この分野における課題の状況が明らかになった。
加えて、研究で使用するデータの整備を並行してすすめた。2012年に第1派調査を行ったサンプルに対し追跡調査を実施し(実査自体は2016年に完了)、昨年度中に主要な項目のコーディングとクリーニングを済ませることができた。収集されたデータの性質と基礎的な項目の分布について、研究会において簡単な報告を行った。第2派調査の回収率は約73%であり、高校生を追跡した継続調査の数値としては高い。調査対象者の進学結果(大学・短大の学部・学科・コース)を学校基本調査の結果を照合し、確認すると、両者のあいだのずれは非常に小さく、全国的な傾向を正確に反映したデータが得られていることが分かった。高校在学中の希望と、実際の進学実績では、データ全体の集計では、ほとんど変化がなかった。しかし、個人内では多様な変化が見られ、明らかな特徴としては、高校2年生から卒業・進学のあいだに、理系から文系へと進路を変更しているものが少なからず存在することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた第2派のデータ(「高校生と母親調査,2012」フォローアップ調査)のハンドリングをH29年度には終わらせ、本格的な分析が可能となる準備をすすめることができた。第1派のデータ、さらにPISAデータの分析もすすめており、成果報告に向けた研究が着実に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
2012年に実施した第1派調査のデータを再分析する。日本の研究では、性役割規範の内面化が女子に、男子とは異なる進路を選び取らせる有力な要因として指摘されてきた。しかし、2000年頃から性役割規範の内面化と女子の進路選択の関連が弱まってきたことを指摘する研究が相次ぎ、なぜ女子と男子が異なる進路を選び取るかについて、理論仮説を更新する必要が出てきている。その点、国外の研究において、従来の性役割規範とは異なる内容をもつジェンダー意識が、男女の進路選択を性的ステレオタイプが強い領域に制約しているという議論が高い注目を集めるようになってきている。また、国内の研究でも、性役割規範が多元的な意識であることはかねてより研究されており、そうした議論を、進路選択の文脈と接続させ、先行研究における課題ないし疑問点を解決する。
さらに、国際的な学力調査のデータを補足的に利用し、数学や科学のパフォーマンスと進路選択がどのように結びついているかを、生徒の社会的背景や学業に関する自己概念を統制したうえで、詳しく見ていく。近年の研究では、学力の性差と進路選択の性差のあいだには、きわめて弱い関係しか認められないとされることが多くなっているが、国内では学力の情報を利用できる調査がまだ少なく、この点についても客観的な実態を正確に示しておくことは、研究分野の発展にとって不可欠の作業である。
また、高校生とその母親に対する調査の第2派調査を利用し、STEM分野への進学を希望していた高校生のうち、どれだけが実際に当該分野に進学したかを、パネル・データの分析から明らかにしていく。進路希望と実際の結果の関連の強さに性差が見られるかどうか、当初の希望と異なる進路を結果として選び取る生徒にはどのような特徴があるのか、さらにそれが性別と何らかの重要な関係をもっているのかといったことを中心に、第2派調査のデータを検討する。
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