地震学では、地震波から地球内部の構造の情報を引き出すために、レシーバ関数解析よばれる手法がよく用いられるが、高周波帯域では計算(デコンボリューション)が安定しない。また、海底地震計で記録される地震波形データには、海面多重反射波が含まれているため、レシーバ関数解析の前提となる条件を満たさない。本年度は、前年度に引き続き、この問題を解決するための手法開発にあたった。新手法は、現代的な統計学の手法(リバーシブルジャンプマルコフ連鎖モンテカルロ)を利用しており、コンピューターの計算能力を駆使するものである。新手法によって、従来のレシーバ関数解析手法よりも正しく、高周波帯域かつ海底の地震波形記録でレシーバ関数を計算できるようになった。新手法についての論文が国際誌に採択されたほか、プログラムコードをWEB上に公開している。なお、ここまでの研究成果はブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)との共同研究となっている。 新手法を用いて、沈み込み帯の巨大地震断層面近傍の地震波速度構造を明らかにするために、紀伊半島沖に設置されているDONET海底ケーブル地震計での解析に着手した。その結果、得られたレシーバ関数波形上で、巨大地震断層面に由来すると考えられる変換波を確認することができた。現在は、レシーバ関数波形に対してインバージョン解析を行うことで、地震波速度構造の推定を試みている。暫定的ではあるのものの、巨大地震断層面近傍に厚さ1 km程度の低速度層が存在することが分かってきた。 また、日向灘に設置された海底地震計のデータに対しても同様の解析を始めている。
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