研究課題/領域番号 |
17H06607
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山田 佳奈 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (50802120)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 高次高調波 / 超高速化学 |
研究実績の概要 |
本研究は、数フェムト秒の時間スケールで誘起される分子内超高速電荷移動過程と、数十から数百フェムト秒の時間スケールで誘起される原子核位置再配置を伴う電荷移動や化学反応を観測し、光化学反応の理解を深めることを目指している。これを実現するために、本年度は以下の内容を行った。 1. 単一パルス高調波を発生させるために、パルス幅約5フェムト秒の赤外光を発生させるとともに、この短パルス幅赤外光の包絡線内で振動する光搬送波電解の位相を安定化するフィードバック機構を構築した。得られた短パルス幅赤外光の一部はArやC2H4ガス媒質に集光し、高次高調波を発生させた。基本波の光搬送波電解の位相に依存して高調波スペクトルが変化する様子を平面結像型EUV分光装置を用いて観測したところ、発生された高調波は単一パルスであることが示唆された。 2. 1において得られた赤外光と高次高調波を穴あきミラーを用いて混合し、これらの光をガス試料に照射するポンプ-プローブ計測機構を構築した。この際、真空チャンバーと光学系設置部分を分離するなどの工夫を行い、装置の振動由来のポンプ光とプローブ光の遅延時間のふらつきを1フェムト秒程度に抑えた。さらに、He-Neレーザー光を赤外光と高調波と同軸に導入し、これらの光を混合した際のHe-Ne光の干渉縞を観測することにより、実際の遅延時間の変化の追跡を行い、高時間分解能での計測を可能にした。 3. 1と2で導入した装置と磁気ボトル型光電子分光装置を用いて、高時間分解能でポンプ-プローブ測定を行った。Arを用いて発生させた高次高調波と遅延時間を付けた短パルス幅赤外光をXeガス試料に照射し、光電子スペクトルを観測したところ、得られたスペクトルは数フェムト秒周期の遅延時間依存を示したため、導入した装置を用いれば、数フェムト秒の時間スケールの高速過程が追跡可能であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の計画通り、短パルス幅赤外光と単一パルス高次高調波の発生を行うとともに、高時間分解能のポンプ-プローブ計測機構の構築を行うことが出来た。単一パルス高次高調波の発生にあたっては、ガス媒質の圧力や基本波のパルス幅などを変化させることにより、高調波のスペクトル領域をある程度自由に変化させられることが分かったため、次年度に予定している超高速過程の観測に適した高調波も発生可能であると考えられる。また、高時間分解能でポンプ-プローブ計測を行うにあたっては、遅延時間のふらつきを解消するためのフィードバック機構を構築することを当初予定していたが、フィードバックを行うよりも、遅延時間の変動をモニターする方が、より高時間分解能を示すことが分かったため、この方法に変更した。実際、導入した装置を用いて数フェムト秒周期の遅延時間依存性が観測できている。手法に一部変更はあったものの、次年度の計画を遂行するにあたって十分な進捗があったと考えられるため、おおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度に導入した装置の開発を進め、高時間分解能でポンプ-プローブ吸収分光ができるようにする。さらに、高次高調波の発生方法に関しても改善を行い、発生される高調波のスペクトルをより自由に変化させられるようにする。現状の高調波発生装置を用いても、限られた対象試料分子に関して吸収分光を行うために必要な高調波を発生させることは可能であるが、分子によって適した高調波のスペクトル領域は異なるため、現状よりもさらに高調波スペクトル領域を自由に変化させられれば、より多くの試料に関して研究が行えるものと期待できる。その後、実際に吸収分光により数フェムト秒の高速過程や数十から数百フェムト秒の化学反応を観測する。吸収分光のみでは、観測結果の解釈が難しい可能性があるが、その場合には光電子やイオンを観測する装置を用い、光化学反応過程を詳細に理解することを試みる。
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