光照射により分子をイオン化すると、分子内で電子間相互作用のみに起因した超高速な電荷移動過程が数フェムト秒の時間スケールで起き、さらにその数十から数百フェムト秒後に、原子核位置再配置を伴う化学反応が起こる。本研究においては、これらの過程を観測し、光化学反応の理解を深めることを目指した。この実現のために、本年度は以下の内容を行なった。 1. 平成29年度に導入した、短パルス幅赤外光と単一パルス高次高調波を用いたポンプ-プローブ計測機構と平面結像型極端紫外分光装置の動作確認として、ヘリウム原子の吸収分光を行なった。その結果、ヘリウムガス試料の圧力に依存して、吸収ピークの形状が大幅に変化する現象を観測することに成功した。 2. 光電子-光イオン同時計測装置の設計と開発を行なった。これを用いれば、分子への光照射時に放出される電子と、光化学反応の結果として生じるイオンの両方を観測することが可能なため、吸収分光法と組み合わせた相補的な反応の解釈ができ、より詳細に光化学反応に関する情報が得られると期待される。 3. 2.において開発した光電子-光イオン同時計測装置を、平成29年度に導入したポンプ-プローブ計測機構に接続し、高次高調波を用いて生成させた高励起状態の窒素分子イオンの解離過程を、高時間分解能のポンプ-プローブ計測により観測した。その結果、C状態に生成した窒素分子イオンが数十フェムト秒の内に解離していく間に、赤外光照射によってさらに励起される様子の実時間観測に成功した。さらに、シェイクアップ過程により生じた高励起状態の窒素分子イオンが赤外光によってイオン化され、クーロン爆発する様子が明らかになった。
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