下肢動脈バイパスに用いる代用血管(グラフト)として大伏在静脈を代表とする自家静脈は、合成素材を材料とする人工血管に比較すると良好な長期開存が報告されているが、それでも大腿膝窩動脈バイパス静脈グラフトの5年開存率は約75%、脛骨動脈や腓骨動脈を末梢吻合部とする遠位バイパスの静脈グラフト5年開存率は約50%2、長期的には一定の頻度で閉塞を来すことが知られている。グラフト閉塞の主な原因が新生内膜形成とそれに続く内膜肥厚であり、特に血管狭窄病変に対するバルーン形成術後や金属ステント留置後に、機械的損傷により健常な血管内皮細胞が欠損しそれを契機に血管中膜内に豊富に存在する血管平滑筋細胞が異常増殖することで内膜肥厚が起こり血管内腔を狭窄せしめ、最終的に閉塞を来すというメカニズムはよく知られている。しかしながら静脈グラフトにおいては血管内膜と内皮細胞は健常に保たれているはずであり、前述のメカニズムとは別の機序たとえば吻合操作や静脈の動脈化による血流増大に伴うshear stressなどが内膜肥厚の発生に関与していると予想されるが、その詳細な機構は未だ明らかではない。 ラット大腿静脈グラフトを用いた大腿動脈バイパスモデルは、静脈グラフトの内膜肥厚を研究するために適した動物実験モデルであるが、微小な血管どうしを顕微鏡下に吻合するという操作を必要とし、その技術的難易度は非常に高い。我々は研究期間終了時までにモデル作成手技の安定化に成功し、次なる段階としての静脈グラフト内膜肥厚機構解明に向けた実験の準備段階を終えることができた。
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