研究計画に基づき、膀胱過伸展および両側内腸骨動脈結紮によるモデルラットが排尿筋低活動モデルラットとして妥当か検証した。 膀胱過伸展モデルでは、麻酔下で経尿道的にカテーテルを挿入し、膀胱内圧を測定しながら生理食塩水を注入して、30分間一定の圧(100-120cmH2O)を保つように膀胱を過伸展させた。偽手術群を対照群として、術後5日後に膀胱内圧測定を行った。 過伸展群では平均尿流率が低下し、膀胱重量が増大する傾向はみられたものの、最大排尿圧の低下や残尿量の増加、排尿効率の低下といった排尿筋低活動に特徴的と考えられる変化は認めなかった。また、膀胱内圧を一定に保てないラットが複数匹見られ、安定したモデル作成が困難だったため、実験条件を調節しても有意な差を持った機能障害を安定して作ることが難しいと判断した。 続いて内腸骨動脈結紮によるモデルラットの検証を行った。麻酔下で両側の内腸骨動脈を剥離・結紮した。偽手術群を対照群として、術後28日目までの24時間排尿行動の経時的変化を評価した。術後28日までの間に、群間で排尿行動に有意な変化がみられると考えられる時期が同定できず、いずれの時期に検証を行っても、治療標的の探索、薬効評価を行うには適切な中等度の障害が出現するとは考えにくいとの結論に至った。 したがって、今回の検討に用いた2つの病態モデルは、ヒトの排尿筋低活動の病態に近似したモデル動物として治療標的の探索、薬効評価を行うには適切なモデルとは言い難いと考えられた。新規モデル動物を確立することは非常に困難であり、近年骨盤神経を鉗子で一定期間把持することで、安定して排尿筋低活動モデル動物が作成されることが報告されているため(Eur Urol. 2018: 336-345)、今後は既報告で確立されたモデル動物を用いて、病態評価および治療標的の探索を行う方針である。
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