研究実績の概要 |
本研究は、放射線によるDNA二本鎖切断(DSB)に対する修復機構に着目し、放射線の感受性を高める因子の探索とがんに対する放射線治療応用へと発展させることを目指す。ここでは細胞周期依存的な修復としてS/G2期におけるDSB修復機構に着目した。S/G2期では、DSB修復の2つの重要な経路である相同組換え修復(HR)と非相同末端結合(NHEJ)が競合し、BRCA1やCtIPなどの分子がNHEJ経路を制御することでHR経路が選択・亢進されることが知られている(Hustedt N and Durocher D, Nat Cell Biol 2016)。そこで本研究は、BRCA2の異常によりHR修復機構が破綻している遺伝性乳がんは、S/G2期において放射線の感受性が増す、つまり増感作用が引き起こされると考えた。 まずS/G2期に同調させる薬剤をいくつか試したところ、比較的毒性が低いCDK1阻害剤のRO-3306を、G2期アレスト誘導剤として用いた。RO-3306と放射線照射を併用したところ、Capan-1細胞(BRCA2機能欠損)においてDSB修復阻害が引き起こされることを見出した。さらに放射線照射後のDNA修復過程において、HR修復亢進の指標であるDNA末端リセクションが亢進されているかを、RPAのリン酸化レベルをウエスタンブロット法により定量して調べた。G2期に維持された細胞では、放射線照射後のRPAのリン酸化(S4/S8)タンパクの発現量が亢進されていた。よってG2期アレストと放射線を併用することでHR経路が選択・亢進されるが、HR修復機能が欠損したBRCA2異常型の遺伝性乳がんなどでは修復阻害が起こり、放射線の感受性が高まることが示唆された。今後さらに上記DSB修復選択機構の詳細を調べることで放射線増感戦略を構築する。
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