平成30年度は、研究計画にしたがい、エイブラハム・ヘッシェルと、フランツ・ローゼンツヴァイクおよび彼の同時代のユダヤ教正統派の論客たちの律法理解について研究を進めた。6月には、論文「現代ユダヤ思想における律法の意味を考える―ブーバー、ローゼンツヴァイク、ヘッシェルの場合」を執筆した。本論考は令和元年度、京都ユダヤ思想学会刊行の学術誌『京都ユダヤ思想』に掲載予定である。7月にはクラクフで行われたヨーロッパユダヤ学協会第11回学術大会において、ローゼンツヴァイクの律法論に対する同時代のユダヤ教正統派の反応について発表した。ローゼンツヴァイクの律法論は、同時代の改革派と正統派の両方を批判するものであった。発表では、同時代の正統派の論客ヤーコプ・ローゼンハイムとヨーゼフ・カルレバハがこれに加えた再批判を分析した。ローゼンツヴァイクとカルレバハの関係についてはさらに研究を続け、9月の日本宗教学会において報告をおこなった。このなかで、ドイツのユダヤ教正統派の多様性を詳しく解明することができた。この成果は令和元年度に論文にまとめる予定である。10月には『フランツ・ローゼンツヴァイク――生と啓示の哲学』を刊行したが、その第9章でローゼンツヴァイクの律法理解について詳述した。以上のような研究の結果、本研究でとり上げた論者のあいだには、伝統的律法の遵守の程度や方法ではなく、律法の遵守にどのような意味を込めるのか(あるいは、遵守する理由をどのように説明するか)という点に重要な差異がみられることがわかった。この違いのために、共通の問題に直面していたにもかかわらず、かれらはお互いを肯定的に評価することができなかった。今後、伝統的律法と権威とのかかわりの諸相を文化的記憶という視点から――ユダヤ人の文化的記憶の問題については論文「ホロコーストを語ること」を発表した――分析してゆきたい。
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