研究課題/領域番号 |
17H06667
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
布川 あゆみ 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 助教 (80799114)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | ドイツ / 移民の統合 / 移民問題 / 移民の親 / 教育期待 / 教育社会学 / 比較教育学 |
研究実績の概要 |
本研究は、子どもに対する移民の親の教育期待への着目から、ドイツにおける移民の統合問題を論じることを目的としている。平成29年度は、文献調査と約2週間にわたる現地調査の実施を中心に、研究課題に取り組んだ。 文献調査では、主に「多様性」や「差異」、「統合」、異文化間教育、多文化教育をめぐる国際的研究動向の把握ならびにドイツ国内独自の概念整理について重点的に行った。その結果、2015年のいわゆる「欧州難民危機」を契機に、当該社会では「差異」や「多様性」、「統合」をめぐる議論や問題がより複層化していることがみえてきた。 現地調査では、移民集住地域における初等教育段階の学校において、親子参加型の「ファミリー・リテラシー・プロジェクト」を重点的に観察した。ここでは「関心のない親」として一枚岩的に捉えられがちな移民の親の多様な姿の把握に努めた。またこのプロジェクトの実施者であるファシリテーターにインタビューを実施し、学校外の立場からみた移民の親と教師の関係性の変化について捉えることができた。 現地調査の実施を通じて、学校に所属する教師ではなく、学校外の立場から移民の親にかかわるファシリテーターを介することで、移民の親が子どもの教育をめぐって苦悩する姿を引き出せることがみえてきた。それはまた「無関心な親」として、従来学校側が移民家庭に対して抱いてきた否定的なまなざしを変えさせる契機となることが明らかとなった。学校外との連携によって、移民の親に対する否定的なまなざしから教師が脱するプロセスを確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
移民に対して従来抱かれてきた否定的なまなざしが変化していくプロセスを明らかにすることができた。受け入れ社会側のまなざしに変化が生じていることに着目することによって、従来の「移民の」統合問題という切り口とは異なる、「受入れ」側に対する批判的な考察を展開することができた。この研究成果の一部を論文としてまとめることができた。 また、「問題としての移民家庭」というまなざしが向けられがちな家庭(親)だけではなく、「統合に成功している」エスニック・グループの代表格として当該社会で位置づく中国系移民の親の存在にも新たに目を向け、平成29年度中に予備調査を実施することができた。子どもの教育期待を切り口に、さまざまなタイプの移民の親にアプローチすることで、「関心のない親」として従来位置づけられてきたドイツにおける移民の親の多様な姿を明らかにする準備が整いつつある。 以上のことから、平成29年度は当初の計画通りに研究を進め、期待以上の成果を得ることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度(平成30年度)は文献調査、現地調査、学会発表および論文化の準備を進める。文献調査では、「世代間移動」を新たな切り口に文献収集を進める。現地調査は2週間前後を予定し、「ファミリー・リテラシー・プロジェクト」の実施状況を確認しながら、プロジェクトに参加している親への聞き取り調査を実施し、移民の親の教育への期待の内実に迫る。また中国系移民の親にもアプローチし、「統合に成功している」と位置づけられるエスニック・グループの教育への期待、教育へのかかわりについてインタビューを実施し、その特徴を明らかにする。 これらの研究成果については学会発表や論文執筆という形で発表を行う。
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