本研究は、子どもに対する移民の親の教育期待への着目から、ドイツにおける移民の統合問題を論じることを目的としている。平成30年度は、文献調査と現地調査の実施を中心に、研究課題に取り組んだ。 初年度に行った文献調査から、2015年の「欧州難民危機」を契機に、近年、ドイツ社会で「差異」や「多様性」 、「統合」の問題がより複層化していることがみえてきた。本年度はさらに「差別」、「排除」、「世代間社会移動」などの新たな切り口から、移民の社会統合をめぐる研究動向の把握に努めた。またこれまで「統合に成功している」移民グループの代表格として位置づけられてきたベトナム系移民と、新たに位置づけられつつ中国系移民に関する文献調査も重点的に行い、「問題」として位置づけられがちな移民グループとの違いに関して、ドイツ的文脈の把握に努めた。また「統合に成功している」移民グループであっても、職業社会への参入においてはさまざまな困難が生じており、学校から仕事への移行において移民背景をもつ人々が抱える特有の困難について、構造的問題の把握に努めた。 現地調査では、ブレーメン・ハイドン校での教師への聞き取り調査および授業観察を実施し、移民の子どもに対する教師の教育期待の内実を捉えることに努めた。またブレーメン教育省教育行政官への聞き取り調査から、この間の教育政策の全体状況および移民の子どもの進学状況について把握を行った。加えて、オルデンブルク大学において、移民の子どもに対する特別支援教育の実態について情報収集および研究者との意見交換を行った。進路勧告をめぐる問題について、新たに問題意識をもつことができた。 移民の子どもとその親が、教育制度、すなわち受け入れ社会から排除されていくプロセスとその背景的要因について、複合的・多角的に分析していく視点を得ることができた。
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