本研究は、酸素濃度の変化がアレルギー反応を誘発する1因子であると考えられること、そしてTransient receptor potentially (TRP) ankyrin 1が相対的低酸素状態におけるマスト細胞の酸素受容を担うという代表者の発見に基づき、各種免疫細胞のTRPチャネル発現動態を解析し、アレルギー病態の酸素受容による増悪化機構を明確化することを目的とした。 1. 各種免疫系細胞におけるTRPチャネルの発現解析:マウス骨髄由来マスト細胞ならびにその細胞株、T、B細胞群の各種TRPチャネルの発現をフローサイトメトリー、プロテオーム、免疫染色で解析した。骨髄由来マスト細胞では、TRPA1、M3、M7が発現しており、マウス及びヒト細胞株では、TRPA1がより発現していた一方、M3、M7は発現量に差異はなく、その他TRPサブファミリーの発現も認められなかった。腹腔内より抽出したT、B細胞では、いずれのTRPチャネルの発現も確認できなかった。 2. 相対的低酸素状態におけるマスト細胞のTRPチャネルの発現解析:上記の結果から、相対的低酸素刺激後のマスト細胞のTRPA1、M3、M7の発現動態をフローサイトメトリー及び免疫染色、ウェスタンブロット法にて解析した所、TRPA1チャネルのみ発現量が増加した。 3. アトピー性皮膚炎(AD)モデルマウスにおけるTRPA1チャネルの発現解析:ADモデルNC/Tndマウスに対して相対的低酸素刺激を加え、掻爬行動、皮膚炎症状、経費水分蒸散量を解析し、皮膚組織におけるTRPA1発現を確認した。さらに、NC/Tndマウス骨髄由来マスト細胞に対して相対的低酸素刺激を加え、発現解析を実施した。相対的低酸素刺激後、皮膚炎症状、経皮水分蒸散量に変化は認められなかった。他方、掻爬行動は、顕著に増加し、皮下組織におけるTRPA1陽性マスト細胞数が増加した。
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