藍の歴史は古く、日本でも古典絵画に藍の顔料が使われていたことまでは機器分析などで明らかになっているが、その製造方法は不明な点が多い。本研究では、江戸時代の文献に概略のみ残されている古来の絵具製造法を再現し、発色の高い顔料化した藍を蘇らせることを目的とした。藍の飴出し抽出法とは、藍裂や藍糸から石灰と水飴を用い顔料化する方法であり、古くは葛飾北斎が記した『絵本彩色通』(1848年刊行)にその記述が認められる。種類の異なる蓼藍、琉球藍、インド藍の抽出試験を行い、結果試料を数種類の科学分析にかけることで、化学の側面から発色や物性、色数値の測定検証を行った。日本本島で行われる藍染はタデ藍の葉を 発酵処理して「スクモ」をつくり、それを建てて染める一方で、インドや沖縄地方の熱帯、亜熱帯地域では、古くから沈殿 藍、泥藍と呼ばれる手法で染められ、それぞれ色味に違いがある。しかし分析結果には植物や色味の違いは反映されず、常に一定の発色、色相、明度を示すことが分かった。また蛍光エックス線調査よりどの試料からもカルシウム(Ca)が検出されていることから、藍の顔料化に用いた石灰が含まれていることが明らかとなった。これは、藍顔料に夾雑物として石灰が残留しているのか、あるいはインディゴ色素が石灰に固着して顔料化しているのかは引き続き検証が必要である。飴出し法では石灰、水飴のどちらかが欠如してもこの変化は起こらず、藍の抽出も行えない。石灰を炭酸カルシウムに置き換えて実験を行ったところ、ほぼ抽出が行えなかったことから、抽出に用いる水を石灰の成分で強アルカリの状態にすることが重要だと考察された。配合を変えた試験でも結果に大きな違いは見られず、分量の調節では抽出された藍の精度を上げることは難しいが、どのような実験下でも安定して顔料化を行えることが実証された。
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