本研究は,固体高分子形燃料電池(PEFC)の正極触媒として使用される白金合金触媒の高耐久化を実現するために,白金合金触媒の腐食劣化機構を解明することを目的として実施された.本研究では,PEFC作動環境である電位負荷変動下において,白金合金触媒の腐食量をその場測定可能なチャンネルフローマルチ電極法の構築に取り組んだ.また,白金合金触媒の腐食に伴う劣化過程を,走査型電子顕微鏡を用いて同一視野観察する手法を確立し,触媒の劣化を視覚的に判断することに成功した. 本年度は,パルスメッキ法により粒径および組成を制御して作製した白金銅合金ナノ粒子を用い,電気化学測定と腐食量測定および同一視野観察を組み合わせることで,その腐食劣化挙動を検討することに成功した.PEFC作動環境においては,白金銅合金ナノ粒子から銅が選択的に腐食するため,ナノ粒子の表面には白金が濃縮した層が形成する.この層により銅のさらなる腐食は抑制されるが,電位負荷が大きい環境では白金自体も腐食してしまうため,作動環境に長期で曝されるほど白金および銅の腐食によりナノ粒子の粒径が徐々に縮小していく.また,作製したナノ粒子の初期表面形態はラフネスが大きく大きな有効表面積を有していたが,PEFC作動環境において粒径の減少とは別に,表面が滑らかになっていく現象が確認された.これは,ナノ粒子から腐食した白金がナノ粒子上へ再析出することに起因するものと考えられ,粒径の減少および表面のフラットニングにより白金合金触媒の有効面積が減少することが,PEFC作動環境における触媒劣化の主要因であることを特定した.さらに,ナノ粒子は形状が変化してしまうだけではなく,劣化によりその初期組成を維持できていないことから,これらを抑制するための組織制御や表面処理方法が必要であり,それらは今後の課題である.
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