本研究は、戦後日本において、女性の就業率が上昇する中で就労抑制的な配偶者控除制度が拡充されてきた要因を、比較の観点から探るものである。最終年度にあたる2018年度には、日本の事例分析を進めるとともに、女性の就業率が上昇する中で既婚女性の就労に中立的な税制に移行したスウェーデンの事例について現地調査を含む調査・分析を行い、以下の知見を得た。 第一に、日本の配偶者控除制度は、常に専業主婦世帯のための制度であったわけではなく、自民党による農・自営業者や給与所得者への利益分配としての減税の影響を受けながら、受益者を変えながら拡充され、その過程で既婚女性の就労に対する「壁」としての性格を持つようになったことが明らかになった。それは長期に存続する制度が、常に特定の社会集団・価値観と結びついているとは限らず、変化してきたからこそ存続した可能性を示唆している。 第二に、スウェーデンとの比較を通じて、しばしば指摘される性別役割分業意識だけでなく、政権党の支持構造が、既婚女性の就労に関わる税制に影響を与えた可能性を指摘した。具体的には、労働組合を支持基盤とし、給与所得者世帯に対する包括的な所得税減税を推進したスウェーデンの社民党と異なり、日本の自民党は、支持基盤である農・自営業者世帯に対する減税を推進すると同時に、野党に対抗しながら給与所得者世帯に対するアドホックな減税を重ねた結果、意図せざる形で既婚女性の就労に対する「壁」が形成されたとの解釈が成り立つ。
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