本研究は現代フランスの哲学者エティエンヌ・バリバールを中心に、現代フランス語圏の思想を共同体論の解明という観点から考察することを目的としている。最終年度にあたる本年度は、昨年度から継続していた文献の収集および読解の基礎的な作業を踏まえ、主な成果を以下のようなかたちで公表した。 第一に、第43回社会思想史学会において、セッション「資本主義と人種主義――『人種・国民・階級』から30年」を開催した。酒井隆史氏(大阪府立大学)、佐藤嘉幸氏(筑波大学)とともに口頭発表を行い、バリバールとアメリカの社会学者イマニュエル・ウォーラーステインの共著『人種・国民・階級』の現代的な意義を再考した。あわせて、著者に対するインタヴュー映画(C・ヘラー、L・ペッツァーニ監督『交差する視線―― 『人種・国民・階級』をめぐる 30 年後の対話』2018)を上映し、考察の射程をさらに広げるようにつとめた。第二に、社会思想史学会ホームページに本セッションの内容をまとめた報告書を掲載した。 上記二点においては、現代世界における人種主義(レイシズム)の浸透をめぐって、経済との関連という観点を特に重視して考察を行った。これによって研究課題の共同体論について、その内部に分断と排除がもたらされるあり方を詳細に分析することができた。また、上記二点に関連して、下半期にフランス・パリに短期間出張し、昨年度から延期していた国立図書館における資料の調査および収集を行った。
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