本研究は、昭和戦前・戦中期の公法学者たちが展開した天皇主権論について、綿密な資料調査に基づき、その全体像を明らかにすることを目的としている。美濃部達吉に代表されるいわゆる「立憲学派」の法学者たちの学説やその今日的意義はよく知られているが、それと比較すると、天皇主権論を唱える法学者たちについての研究は依然として進展が少ない。しかし、戦前の憲法学のあり方を正確に把握するためには、この「天皇主権学派」に対する理解が不可欠である。このことは、天皇の退位問題を巡るさまざまな議論の中で、時に帝国憲法についての言及がなされていることからも明らかである。 平成30年度は、前年度に調査できなかった資料の収集、および収集した資料の分析に従事した。上杉慎吉に関する資料の追加等を実施した他、これまであまり脚光を浴びてこなかった清水澄らの議論について、穂積八束や上杉慎吉らの議論といかなる関係にあるかを調査した。
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