本研究の目的は、現代的な交通政策を支える法的枠組みについて、計画行政法の見地から、提言を行うことであった。すなわち、昨今、交通工学などの分野では、「コンパクトシティ」が合言葉となり、自動車交通を抑制するとともに、マイカーから公共交通機関や自転車といった交通手段への転換を促す施策が試行錯誤されており、その基盤を法的側面から構築していくことが本研究の狙いであった。そして、円滑な移動、交通安全、環境保護、まちづくり、こうした諸利益を踏まえた統合的な交通政策の実現が喫緊の課題であるという認識の下、1.交通利用者の権利、2.沿道住民の環境利益、3.中心市街地の活性化、に着目しつつ、法的な考察を進めてきた。なお、上記の課題は、道路交通法や道路法といった、いわゆる交通法制のみにとどまらず、環境法や都市法も密接に絡む状況にある。そこで、本研究では、ある特定の法分野のみを対象とするのではなく、関係する各法領域を横断的に分析してきたわけである。 平成30年度においては、上記の研究目的を踏まえ、とりわけ、シェアリングエコノミーという直近の情勢から示唆を得て、道路空間を活用したカーシェアリングについて、その公物法理論上の課題を語ることに力を注いだ。すなわち、ドイツでは、カーシェアリングの利用に対して優遇措置を講じ、これによってカーシェアリングの普及を促そうとする法律 が2017年に成立しており、この新法を素材として、公物管理法たる道路法と公物警察法たる道路交通法との関係性、そして両法領域と計画法との接合について、行政法理論からの分析を加えることに成功した。
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