本研究の目的は、組織目標の異なる複数の組織が参画するプロジェクト(組織横断型プロジェクト)の成立過程がその実施過程に及ぼす影響を、プロジェクトの正当性という観点から考察することにある。組織横断型プロジェクトに参画する組織は、利害が異なるゆえに、同一のプロジェクトをそれぞれ異なる観点から捉えることになる。平成30年度は、そうした捉え方、すなわちフレーミングの相違がプロジェクトの成立過程及び実施過程にいかなる影響を与えるか、に焦点を置き、分析を行った。その分析からは、本来であれば正当性を低下させると思われる「組織間でのフレームの相違」が、むしろプロジェクトに正当性を与え、その結果として組織横断型プロジェクトが成立する、という論理が示唆された。 平成30年度の具体的な作業としては、既存研究のレビュー及び学会報告、論文執筆を行った。レビュー作業は、社会運動論など「フレーミング(framing)」概念を扱う研究領域を対象に実施した。その作業からは、「複数のフレームが共存する」という現象がこれまで必ずしも十分に議論されていないことが明らかとなり、本研究の理論的貢献の所在が明確になった。 学会報告は、国際学会にて行った。その内容は、本研究が事例として取り上げた「バイオマス・ニッポン総合戦略」(組織横断型プロジェクト)のもとでいかに「複数のフレームが共存する」状態が創出されたのかを分析したものである。論文に関しては、当該学会にて報告した論文に加え、昨年度に実施したインタビュー調査に基づくケース論文も執筆し、オンラインにて公開した。 「プロジェクトの成立過程が実施過程に与える影響」に関しては、上記の作業を通じて、「複数フレームの共存がプロジェクトの成立を導く一方で、実施過程の効率性を阻害する」という仮説を導出し、その理論的基盤を整えている。
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