本研究の目的は,企業統合・企業買収(M&A)後に行われる統合プロセス(PMI)が,どのような要因によって促進・あるいは阻害されるのかを検討することにある.本研究では,とりわけ,2度の合併によって誕生した産業ガス大手企業のエア・ウォーター株式会社を事例として,M&A後の統合プロセスのダイナミクス(時間展開)に焦点を当てる. 平成30年度に行った活動は,大きく分けて2つある.第1に,前年度に調査企業の協力を得て入手した社内報のテキスト分析である.社内報は,M&A後の統合プロセスを動態的に観察することが可能となる点に最大の特徴がある.より具体的には,事前には意図されていなかった戦略が,M&A後に社内における正統戦略として位置づけられていくプロセスを社内報のテキスト分析から検討した.この分析結果は,日本経営学会全国大会(新潟)で報告した. 第2に,PMI研究のダイナミクスについて理論的発展を目指すレビュー論文を執筆した.より具体的には,(1)PMIに関する多くの先行研究が静態的な研究であることと,(2)動態的な研究においても(a)PMIの長期性に注目するダイナミクスと,(b)経験や学習といった複数のPMI間の関係性に注目するダイナミクスが存在すること,(3)これらのPMIが本来備えている2つのダイナミクスが独立して議論されることが多いものの,融合できるような研究方向性の提示を行なった.このレビュー論文は既に国内の査読付き学術誌に投稿している. 以上のように,平成30年度は,当初の予定通り,前年度に収集したデータを基にして,実証的な検討と理論的な検討を行い,分析結果を公表した.
|