研究課題/領域番号 |
17H06688
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
飯島 聡太朗 一橋大学, 大学院商学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (90801994)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 経営学 / マーケティング / 消費者行動 / 正当性 / 価値 / ことば |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,新製品が市場に受け入れられていく過程で,その製品を含む業界全体の価値規範が変容していく過程を実証的に捉えることである。とりわけ本研究が注目するのは,日本の西洋音楽市場において古楽と呼ばれる新興の演奏スタイルが確立する際に,人々の古楽に対する認識が変わり,既存の演奏スタイルの価値評価の仕方までもが変わっていく事例である。本研究の初年度である平成29年度は,雑誌記事のテキストマイニングを通じて,消費者が抱いているものの善し悪しに関する価値規範が変化する様子の量的把握を試みた。 製品の価値評価についての規範が新たに創り出されたり,改訂的に見直されたりする現象を把握すべく,それが人々によることばのやり取りを通じてなされることを議論した。ここでは,本研究の鍵概念のひとつである正当性に着目した。製品の作り手や売り手には,彼らが提供物の正当化を目指す動機がある。このような正当性の探究は市場の随所で局所的になされており,市場全体の価値規範が変わるのは,それらの探究行為が複雑に影響を与え合うことによっているといえる。テキストマイニングを通じて,古楽がことばの連なり方を変えつつ市場環境に適応していくことと,モダンの価値規範に関することばの連なり方が変わっていくことが明らかとなった。 分析の結果として示唆されたのは,古楽が登場してからその影響が市場全体へ波及していくプロセスは,局所的な正当性の探究が市場の随所でなされながら,何らかの条件が整った場合においてのみ,市場全体の正当性のあり方が変わっていくことである。 なお,このテキストマイニングとその他の質的データに基づく研究成果の一部は,2018年3月の日本マーケティング学会(リサーチプロジェクト合同研究会)にて報告された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は本研究の初年度であり,(1)当該業界全体の価値規範の変化を客観的なデータに基づいて記述すること,並びに(2)この成果と,ここまでの研究で既に得られている古楽についての人々の認識の変化とを突き合わせて検討することに努めた。より具体的には,消費者の製品に対する認識変化を分析すべく,雑誌記事のテキストマイニングと現場観察及びインタビューをおこなった。古楽の正当化と既存の演奏スタイルであるモダン演奏の価値規範の変容という2つの変化がどのような経緯によって起きたのか,というのが基本的な問いであった。成果の一部は,2017年3月の日本マーケティング学会(リサーチプロジェクト合同研究会)にて報告された。また,2018年5月の日本商業学会にて,他の一部が報告される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度である平成30年度も,引き続き上記(2)の残り及び,(1)と(2)の成果から得られた見立てを確かめる目的で,それらとは別のデータ収集・分析をおこない,古楽とモダン演奏の関係の変化を複眼的に,より精緻に捉えていく。より具体的には,第1に古楽の中核的コンセプトの要素が,モダン演奏家のほぼ全体に広がった経緯を捉えるべく,新たなテキストマイニングを,第2に引き続き現場観察及びインタビューをおこなう。古楽の要素はどのような経路を通じてモダン演奏の世界に広がったのか,また古楽とモダン演奏の関係の変化はどのように起きたのかというのが基本的な問いとなる予定である。成果をまとめ,日本商業学会で報告(予定)し,同学会の学会誌である流通研究への投稿及び日本マーケティング学会での報告を目指したい。
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