研究課題
嚥下は口腔から食道に至るまで、様々な筋肉が約1秒間に連続的に協調して活動する非常に複雑な運動である。この嚥下を制御しているのが孤束核、疑核とその周囲網様体に存在する嚥下の中枢パターン形成機構(CPG)と考えられている。しかし、嚥下CPGを構成するニューロンを識別することは困難であり、その実態は全く明らかにされていない。申請者らは、嚥下CPGに相当する脳領域に転写因子Phox2bを発現するニューロン(Phox2b陽性ニューロン)が多数分布することを見出した。そこで本研究は、Phox2b陽性ニューロンと嚥下CPGの神経機構との関連性を解明することを目的とした。本年度は、疑核とその周囲網様体に存在するPhox2b陽性ニューロンが嚥下CPGを構成するニューロンであるかを確証付けるため、他の領域に存在するPhox2b陽性ニューロンの電気生理学的、形態学的解析を行い、Phox2b陽性ニューロンの特性を比較検討した。実験には生後2~7日齢のPhox2b-EYFPラットを用いた。麻酔下にて脳幹スライス標本を作成後、三叉神経運動ニューロンのプレモーターニューロンが多数存在しており、咀嚼CPGの一部を構成していると考えられている三叉神経運動核背側網様体(RdV)及び小細胞性網様核(PCRt)に存在するPhox2b陽性ニューロンからパッチクランプ記録を行った。組織学的解析よりRdVおよびPCRtにはPhox2b陽性ニューロンが多数分布していることを確認した。発火頻度解析では、RdVに存在するPhox2b陽性ニューロンは低頻度発火型を多く示したのに対し、PCRtに存在するPhox2b陽性ニューロンも同様に低頻度発火型を示した。以上より、分布する領域によらずPhox2b陽性ニューロン共通の特性が存在することが考えられた。
3: やや遅れている
平成29年度は疑核とその周囲網様体に存在するPhox2b陽性ニューロンの電気生理学的、形態学的特性を明らかにすることを研究計画としたが、疑核とその周囲網様体に存在するPhox2b陽性ニューロンが嚥下CPGを構成するニューロンであるかを確証付ける必要があったため、先に、他の領域に存在するPhox2b陽性ニューロンの電気生理学的、形態学的解析を行い、Phox2b陽性ニューロンの特性を比較検討した。その結果、組織学的解析より、三叉神経運動ニューロンのプレモーターニューロンが多数存在しており、咀嚼CPGの一部を構成していると考えられている三叉神経運動核背側網様体(RdV)及び小細胞性網様核(PCRt)にはPhox2b陽性ニューロンが多数分布していることを確認した。発火頻度解析では、RdVに存在するPhox2b陽性ニューロンは低頻度発火型を多く示したのに対し、PCRtに存在するPhox2b陽性ニューロンも同様に低頻度発火型を示した。以上より、分布する領域によらずPhox2b陽性ニューロン共通の特性が存在することが考えられた。これより、当初の計画で予定していた疑核とその周囲網様体に存在するPhox2b陽性ニューロンの解析にはまだ至っていないが、解析を行う上で重要となるPhox2b陽性ニューロンの共通特性がわかった。今後は当初の計画通り、疑核とその周囲網様体に存在するPhox2b陽性ニューロンの解析を行う予定である。
平成29年度の研究成果から、分布する領域によらずPhox2b陽性ニューロン共通の特性が存在することが考えられた。しかし、平成29年度に明らかとなったのは電気生理学的特性であり形態学的特性の比較検討はまだできていない。そこで平成30年度は三叉神経運動核背側網様体(RdV)及び小細胞性網様核(PCRt)に存在するPhox2b陽性ニューロンの形態学的特性を明らかにし、Phox2b陽性ニューロンがどのような領域にどのような出力を送っているのかを解析する。そして、RdVやPCRtに存在するPhox2b陽性ニューロンと疑核とその周囲網様体に存在するPhox2b陽性ニューロンの電気生理学的、形態学的特性を比較検討することでPhox2b陽性ニューロンの機能的解析へと繋げていきたい。
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Brain Res
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10.1016/j.brainres.2018.05.002.
Neuroscience
巻: 358 ページ: 211-226
10.1016/j.neuroscience.2017.06.035.