申請当初の予定通り、Gli3欠損マウスの下歯槽神経の性状を、神経関連マーカーによる免疫染色と電子顕微鏡により観察した。すると、Gli3欠損マウスでは野生型マウスに比べて、ミエリン鞘が肥厚し、神経軸索を圧迫している像が確認された。そこで個体内最大の末梢神経である坐骨神経にも観察を広げたところ、下歯槽神経と同様の結果が得られた。このことから、Gli3欠損によるミエリン鞘の肥厚は、全身の末梢神経で生じている可能性があることが示唆された。そこで、解析対象を下歯槽神経に加え、坐骨神経も研究対象とし、Gli3のミエリン形成に及ぼす作用について検討した。神経堤細胞がシュワン細胞に分化し、ミエリン形成を完了すると言われている胎生12日から生後10日までの坐骨神経を試料とした。末梢神経におけるGli3の発現時期を確認するために、組織切片を作製し、in situhybridizationによる解析に供するとともに、Gli3欠損マウスにおけるミエリン形成を、ミエリンタンパクの免疫染色で生後0日~21日まで経時的に観察した。野生型マウスでは生後まもなくミエリンが発現し、経日的に成熟する一方、Gli3欠損マウスでは生後10日ころまでミエリンの発現は弱かったが、生後14日目以降には野生型とほとんど変化がない程度まで回復していた。このことから、Gli3欠損マウスでは、野生型マウスに比べ、ミエリン形成が遅延することが分かった。 この成長期におけるミエリン形成遅延と成体での過形成との関係について検討を続けている。
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