多くの疫学研究より歯周炎がメタボリックシンドローム関連疾患のリスクを高めることが示唆されているが,そのメカニズムについては不明な点が多い。近年,それら疾患の発症,進行が腸内細菌叢の変動と関連していることが相次いで報告されている。申請者らは歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalis口腔投与が腸内細菌叢を変動させ,それに伴う代謝性内毒素血症の誘導により全身性の炎症とメタボリックシンドロームの一因であるインスリン抵抗性が誘導されることを報告した。メタボリックシンドローム関連疾患の一つである非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は腸内細菌叢の変動と関連があることが報告されている。本研究では,NASHモデルマウスへ歯周病原細菌を口腔投与し,NASHの病態のうち特に重要な肝線維化の誘導を評価すると共に,歯周病原細菌による腸内細菌叢の変動に着目し,歯周炎のNASH病態形成における影響とそのメカニズムを解明することを目的とする。 本年度は,まずNASHモデルマウスへの最適な歯周病原細菌の投与開始時期を決定するため,高脂肪食(60%CDAHFD)投与期間に関する予備実験を行った。その結果を基に,高脂肪食を4週間投与し,肝脂肪変性及び微弱な肝線維化を誘導したNASHモデルマウスへP. gingivalisあるいはP. intermediaを週2回・5週間,計10回口腔投与し,本実験を行った。 その結果,高脂肪食の投与により誘導された肝脂肪変性及び肝線維化が,5週間の歯周病原細菌投与の間に正常に近い状態へ後戻りすることが明らかとなった。今後は,高脂肪食及び歯周病原細菌投与のタイミングや期間等の再検討を行い,再度本実験を行っていく予定である。
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