まず、前年度に引き続き、機能性脂肪酸による歯肉上皮バリア機能修復作用をスクラッチアッセイにて検討し、再現性を確認した。具体的には、コンフルエントに培養したヒト歯肉上皮細胞に模擬的な傷を付与し、各種機能性脂肪酸添加が細胞浸潤・増殖能に与える影響を検討した。培養時間等の条件を変え複数回実験を行ったが、この実験系において機能性脂肪酸による歯肉上皮バリア機能修復作用は認められなかった。 次に、前年度のin vitro実験において明らかとなった機能性脂肪酸HYAの歯肉上皮バリア機能保護作用に着目し、実験的歯周炎の発症・進行に与える影響を検討した。具体的には、10週齢のC57BL/6マウスをHYA添加飲水で飼育し、7日目に上顎第二臼歯を5-0絹糸にて結紮、同日から歯周病原細菌P. gingivalisを毎日経口投与することで歯周炎を発症させ、14日目に歯肉組織および歯槽骨を回収、各種解析を行った。結果から、HYAが歯周炎組織における炎症性サイトカイン産生および歯槽骨吸収を抑制することが明らかとなり、実験的歯周炎の発症・進行に対する抑制効果を有することが示された。また、歯周炎組織における細胞間接着タンパク質E-cadherinの発現解析を行ったところ、HYA投与群において歯肉上皮層のE-cadherinの発現が有意に高いことが明らかとなり、in vitro実験の結果同様、HYAが歯周炎に伴う細胞間接着タンパク質の分解を抑制し、上皮バリア機能を強化することが示唆された。 以上の結果は、機能性脂肪酸による歯肉上皮バリア機能強化をターゲットとした新たな歯周病予防法の可能性を示したという点で意義深いものであると考える。一連の研究成果については、日本歯周病学会学術大会および国際歯科研究学会にて発表し、国際誌へ論文を投稿した。
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