研究課題/領域番号 |
17H06705
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
小野木 康弘 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 研究員 (80801761)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 肥満 / 脂肪組織 / マクロファージ / 血小板由来増殖因子 / 糖代謝 / 脂肪幹細胞 / ペリサイト |
研究実績の概要 |
肥大化する脂肪組織では、血管ネットワークの再構築と脂肪幹細胞を起源とする脂肪細胞の新生が起こる。しかし、これらの現象が独立しているのか連動しているかは明らかではない。骨髄や腫瘍内のペリサイトが接着する血管周囲は組織幹細胞を維持する微小環境を提供することから、脂肪組織肥大化におけるペリサイトの挙動とその制御に関わるPDGF-Bの産生機構を解析した。 食餌性肥満マウスの脂肪組織において、マクロファージがPDGF-Bを高発現しており、マクロファージ集積部位においてペリサイトが血管から脱落していたことから、マクロファージが脂肪組織ペリサイトの挙動に与える影響を評価した。クロドロン酸封入リポソームの投与は高脂肪食負荷による脂肪組織のマクロファージ浸潤を抑制し、PDGF-B遺伝子発現を顕著に減少させた。脂肪組織の体積変化の影響を除外するために、クロドロン酸封入リポソームを短期間投与したところ、食餌性肥満マウスによる血管からのペリサイトの脱落を抑制した。一方、長期間のクロドロン酸封入リポソームの投与は、高脂肪食負荷による肥満を抑制し、糖代謝異常を防御した。これらの知見より、マクロファージがPDGF-Bを介してペリサイトの挙動を制御することが示唆された。そこで、マクロファージにおけるPDGF-B発現誘導機構を検討した結果、高血糖と炎症性刺激により誘導される解糖系代謝およびMAPKシグナルを介することが示された。本研究成果により、肥満病態において高血糖と慢性炎症の進展が脂肪組織の血管新生と肥大化に対し促進的に関与することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度科学研究費助成事業交付申請書において記載した平成29年度の研究実施計画に従い、本年度は、高脂肪食負荷による脂肪組織の肥大化において、マクロファージがPDGF-Bを介してペリサイトの局在を制御し、脂肪組織肥大化を促進させる可能性を示す知見を得た。さらに、肥満マウスのマクロファージにおけるPDGF-B発現増加を培養細胞において再現することに成功し、PDGF-B発現調節に関わる新たな細胞内シグナル機構を明らかにした。以上より、肥満によるマクロファージとペリサイトとのクロストークが脂肪組織微小環境の変化を導くことが示唆されたことから、ペリサイトの局在変化と脂肪幹細胞増殖・分化との連動機構の解明に向けてさらなる研究の遂行が可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、「肥大化した脂肪組織において、血管から脱落したペリサイトの機能変化が、脂肪幹細胞の増殖を介して組織肥大化の素地を形成する」と研究仮説を立て、その実証に取り組む。 肥満マウスの脂肪組織において脂肪新生が血管周囲で発生する報告を踏まえ、血管リモデリングと脂肪幹細胞増殖との関連に焦点をあて解析する。蛍光免疫染色法により、正常マウスの脂肪組織における脂肪幹細胞の組織内局在と血管との位置関係を観察する。さらに、肥満による血管リモデリングが抑制されるモデルとしてPDGF受容体欠損マウスとマクロファージ除去マウスの脂肪組織を用いて、脂肪幹細胞の増殖と脂肪組織内局在について検討する。また、肥満による脂肪組織ペリサイトの表面抗原変化および機能的差異について、フローサイトメトリーと定量的PCR法を用いて探索する。さらに、肥大化した脂肪組織でのペリサイトの挙動を模倣した脱離型および接着型ペリサイトが、脂肪幹細胞増殖および前駆脂肪細胞分化に与える影響とその分子機構について細胞培養実験により検討する。
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