肥大化した内臓脂肪組織に認められる炎症性マクロファージの集積および新たな血管と脂肪細胞の生成の三事象の因果関係、およびこれらの相互作用が肥満に及ぼす影響の解明を目的とした。 脂肪組織において炎症性マクロファージがどのようにPDGF-Bを高産生するかについて、発現調節機構を解析した。薬理学的阻害およびRNA干渉法により、炎症性マクロファージのPdgfb遺伝子が解糖系代謝に共役したERKシグナル伝達経路を媒介して発現誘導されることを明らかにした。またPdgfb発現誘導には、肥満により内臓脂肪組織で増加する解糖系代謝物が一部関与し、その誘導作用は他のサイトカイン発現誘導には認められなかった。 また、肥満による過剰なPDGF-Bは、血管からのペリサイトの脱落とそれに伴う血管新生を誘導する。脂肪組織マクロファージ除去により、それらが抑制された知見から、ペリサイト局在と脂肪新生の起源となる脂肪幹細胞の数的変化を評価した。フローサイトメトリーを用いて、マクロファージ除去モデルマウスおよび肥満病態を模倣した培養脂肪組織における脂肪幹細胞変化を解析した。マクロファージ除去により肥満に伴うペリサイトの脱落が防御された脂肪組織において、脂肪幹細胞の割合が低値を示した。一方、肥満脂肪組織を模倣した過剰なPDGF-B存在下において、血管からのペリサイトの脱落は認められたにも関わらず、脂肪幹細胞の割合と増殖能に差異は認められなかった。したがって、肥満による脂肪幹細胞の増殖は、過剰なPDGF-B暴露とは独立した機構により誘導されることが明らかになった。 以上より、脂肪組織の肥大化過程において、浸潤した炎症性マクロファージは、組織内での代謝ストレスに応答した固有の細胞内シグナル伝達経路を介してPDGF-Bを産生し、ペリサイトを血管から脱落させる。この脱落と同時に脂肪幹細胞増殖が誘導されることが示唆された。
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