研究課題
近年急増しているうつ病や不安障害等のストレス関連精神疾患の発症においては、環境要因による「ストレス応答系のかく乱」が関与することが知られている.しかしながら、環境要因がどのように「ストレスに対する脆弱性」を発現させるのかについては依然として不明である.本研究では、近代特有の環境要因である環境化学物質に曝露したマウスおよび培養細胞をモデルに「ストレス脆弱性」状態の発現メカニズムを解明し、新規バイオマーカーを同定することを目的とした.まず、哺乳類の脳神経系への影響が懸念されている新規環境化学物質としてネオニコチノイド系農薬に着目した曝露実験を行った.その結果、ネオニコチノイド系農薬の1種であるジノテフランを発達期曝露したマウスは、新規環境における多動症状やうつ様行動の減少を示し、一部の脳領域においてドーパミン及びセロトニン神経細胞数が増加することが明らかになった.そこで、マウス神経芽細胞腫(Neuro-2a)やヒト神経芽細胞腫(SH-SY5Y)等を培養神経細胞モデルとして影響評価を行った結果、ネオニコチノイド系農薬の1種であるクロチアニジンを曝露したSH-SY5Y細胞においては、培養24時間以内に細胞数が増加することが明らかとなった.
2: おおむね順調に進展している
今年度においては、環境化学物質曝露時に新規環境におけるストレス脆弱性を示す動物モデルを作製し、作用メカニズムの一端として一部脳領域における神経細胞数が変化することを明らかにすることができた.加えて、培養細胞モデルとして細胞種、被験物質等を検討し、ヒト神経芽細胞腫(SH-SY5Y)において、細胞数の増加がみられるという新たな知見を得た.来年度以降、これらのモデルを用いた新規バイオマーカーの候補の探索が期待でき、概ね計画通りに研究が進捗している状況であると判断した.
動物モデルを用いた実験により、これらの環境化学物質が新規環境における行動変化を引き起こす際に、脳のいずれの領域、いずれの細胞種に作用するのかを引き続き同定する.また、培養細胞モデルにおいて観察された影響については、細胞内シグナル伝達や遺伝子発現変化等に着目してメカニズムを解明する.また、オミクス解析を活用して、環境化学物質曝露時に発現変化する新規バイオマーカーの候補因子を抽出し、その有用性を実験的に検証する.
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