本研究課題では、二か年計画において、前半は写本の調査を中心とする課題に取り組み、後半は写本の分析に基づいたテクストの精読によって、中世後期イングランドにおけるナショナル・アイデンティティの形成について考察した。2年目である2018年度は、前年度から持ち越しとなった未刊行テクストの転写作業に取り組み、調査結果を考察した。また、夏以降は、国際学会での報告や論文執筆などアウトプットを行った。 4月から6月にかけて、前年度の春季休暇中に収集した写本の画像データを基に、未刊行テクストの転写を行った。その後、中世後期イングランドにおける自国の聖人崇敬の諸相が見られるひとつの例として、7世紀ヨークシャーの聖女を取り上げ、7月にイギリス・リーズ大学で開催されたInternational Medieval Congressにおいて、スイス国立科学財団プロジェストのLate Medieval Devotion to Northern English Saintsが企画したセッションで研究発表("The Absence of Middle English Legends of Saint Hild of Whitby")を行った。本学会では、他の発表者との意見交換を通して、今後の研究の方向性や研究手法に関して多くの示唆や着想を得ることが出来た。 8月に再度渡英し、大英図書館(ロンドン)、ボドレー図書館(オクスフォード)、ケンブリッジ大学図書館で、これまでの調査と考察の結果を論文にまとめる際に必要な追加調査をし、中世写本の画像データの収集と転写を行った。 2018年度後半は、これまでインプットした調査結果をアウトプットする作業に取り組んだ。まず、これまでの考察をまとめた論文を作成し査読誌に投稿した。同時に、出版のための企画書の作成に取り組んだ。また、前年度より編集を行っていた論文の出版が決定した。
|