研究実績の概要 |
近年、化学療法において薬剤抵抗性が問題となっているが、原因の一つとしてがん幹細胞の存在があげられる。このことから、がん幹細胞の特性の解明はがんの新規治療法を開発するうえで重要な知見となる。しかし、胃がん組織におけるがん幹細胞の性質とその制御機構は明らかにはなっていない。そこで申請者は胃がん幹細胞に着目に研究を行うこととした。 1) in vivo における細胞系譜特異的マウスモデルの作成 Lgr5陽性細胞を細胞系譜特異的に系統追跡できるマウスLgr5-DTR-EGFPマウスは、ジフテリアトキシン受容体がLgr5プロモーター上に挿入されており、ジフテリアトキシンの投与によって、in vivoでLgr5陽性細胞を欠損させることができる。このマウスに、炎症反応依存的に胃がんを発生するマウスモデルGanマウス(Oshima H et al., Gastroenterology, 2006)を交配させることで、胃粘膜上皮でLgr5の発現を可視化した、炎症反応依存的胃がん発生マウス(Gan/ Lgr5-DTR-EGFPマウス)を作製した。次に、このマウスにおけるLgr5発現をGFPの免疫染色で評価したところ、胃体部の腫瘍の一部の胃上皮細胞においてLgr5の強い活性化が認められた。 2) 炎症依存的胃がんにおけるLgr5陽性細胞の性質の評価 上記のマウスにジフテリアトキシンを投与することによって、胃がん組織でLgr5陽性細胞を除去した際に腫瘍がどのように変化していくかを経過的に観察した。コントロールにはGanマウスを使用した。ジフテリアトキシンの投与1か月後にこれらのマウスにおける腫瘍の形態的・組織学的検討を行った。Lgr5発現をGFPの免疫染色で評価したところ、組織内の細胞はGFP陰性であり、Lgr5陽性細胞が除去されたことが確認できた。コントロールのマウスと比較してGan/ Lgr5-DTR-EGFPマウスにおいては腫瘍の有意な減少が認められた。
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