研究課題/領域番号 |
17H06713
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
鳥居 拓馬 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 研究員 (90806449)
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研究期間 (年度) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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キーワード | 身体技能 / 運動制御 / 手抜き |
研究実績の概要 |
人の認知的活動の多くは,自らの身体を動かし,環境へ働きかけることでなされる.身体という大自由度系で高度な動作を生みだす運動制御は一般に身体技能と呼ばれる.人の運動制御は筋肉の収縮を伴うが,大きな力を出すほどに筋肉は疲労し,疲労の累積とともに動作の正確さは失われる.この筋肉の性質上,直接調整できる身体的な力のみでは正確な反復的動作を継続的に行うのは難しい.そこで,ある動作に要する力の一部を環境的な力で補い,身体的な力を抑えて筋肉の疲労を軽減し,正確な反復的動作を継続可能にする身体技能を「手抜き」と呼ぶ.本研究では,筋肉の疲労という身体的制約の下で手抜きを実現する運動制御メカニズムの解明を目指す. 初年度は,より基本的な事項を確認すべく当初の予定を変更し,正確さを要する課題中の動作で身体の力学的な構造の変化が見られるかを確認することに注力した.具体的には,筋肉の疲労を伴う反復動作を調べる前段階として,投球などの単発動作を中心に扱い,人を対象とした実験でモーションセンサを用いた運動計測,アルゴリズム開発,データ分析等を行った.その結果,とくに投球課題において,その課題の成績に大きく影響する正確さを要求する箇所(課題の要所)では身体の力学的構造(自由度)が下がるなどの傾向が複数の被験者で観察された.この結果から,人の運動データからでも課題の要所と運動制御の結びつきを検出できる分析手法の有効性を確認できた.また,疲労を伴う反復的課題を選定すべく,数種類の動作において予備的な実験計測を行い,データ分析を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画段階では初年度は,反復的動作の予備実験とアルゴリズム開発を目標としたが,実際には初年度はより基本的な事項を確認するべく単発的動作の実験・分析に注力したため,単発的動作で成果を上げたものの,本研究自体には遅れが生じている. また,「手抜き」を捉える指標として血中酸素飽和濃度を検討していたが,その後の調査で血中酸素飽和濃度は現在の製品では最速でも1秒間隔での計測しかできず,これは身体動作の計測には遅すぎることが判明した.そこで,血中酸素飽和濃度に代わる指標として,筋肉の出力量に相当する身体動作の加速度(力と同じく2次微分)を用いることに変更した. 以上の実験計画や計測方法の変更を踏まえ,本研究はやや遅れていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
来年度は,初年度の知見を基礎とし,今年度は単発動作よりも複雑な反復動作を中心に扱い,「手抜き」の運動制御メカニズムを解明することを目指す. 現時点では,手抜きを使うことでしか達成できない条件を含む課題の一例として和太鼓の連打(バチ使用)を検討している.ただし,和太鼓という課題に欠点が判明した場合には,既存研究を参考に適切な課題へと変更する.初年度の分析方法や計測機器の変更を踏まえ,まずは疲労している状態の動作と疲労していない状態の動作が力学的構造の違いとして運動計測データから定量的に捉えれることを確認する.次に,操作的な実験が可能であることや,身体環境系の次元(自由度)として手抜きを定量的に検出できることを確認する.現在までの進捗状況を考慮して,来年度は人を対象にした本実験を行い,人の手抜きな運動制御が有する人体の力学的構造を示すことを優先的な目標とする.次いで,手抜きを伴う反復動作の力学モデルの構築および推定アルゴリズムの拡張など,理論的枠組みに向けて進めていく予定である.
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