研究課題
人の認知的活動の多くは,自らの身体を動かし,環境と関わることで成される.そこで人は身体要因の生理的な力に加えて,環境要因の物理学な力を活用できる.職人の工具使用のような反復動作ではとくに重労働の場合疲労の累積とともに動作の正確さは失われる.職人はより効率的な動作を習得するとされる.本研究では効率性を高め正確さの維持を可能にする技能を「手抜き」と呼び,その特徴づけを目指した.本研究では力学系理論の観点からこの課題に取り組んだ.具体的には,効率的な運動制御の形成・変化がその制御の生みだす動作すなわち高次元軌道のどのような性質に表れるかを検討した.最適制御理論の仮説に依拠し,本研究では,効率的な制御は正確さを要する要所で低次元化するアトラクタを成し,それが高次元軌道のフラクタル次元として捉えれると考えた.本研究では,数値シミュレーションを用いた理論的研究とモーションキャプチャを用いた経験的研究を進め,この仮説を支持する結果を得ることができた.具体的には,投球動作に関する実験研究では,ボールのリリース時点(要所)での低次元化を示唆する結果を得た.この実験結果を裏づけるため,多関節ロボットアームでの投球シミュレーションを行い,精度と疲労の観点から最適な制御の生みだす軌道を調べたところ,実験結果と整合的な結果を得ている.現実でも野球選手は反復的に投球するために効率的な投げ方を習得していると考えられる.加えて本研究では,歩行に代表される反復動作に関しても調べた.二足歩行や振子運動などの重力を活かす動作の数値シミュレーションを行い,疲労と速度のトレードオフがより効率的な制御への転換を誘導することを示唆する結果を得た.これに関して,歩行やダンスなどの人間の動作を計測しており,その熟達度と高次元動作の次元が相関する可能性を示唆する結果を得ている.成果発表に向けた準備を進めている.
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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知能と情報(日本知能情報ファジィ学会誌)
巻: 31 ページ: 826-833
New Frontiers in Artificial Intelligence
巻: 1 ページ: 468-477