人間の動作は複数の筋や腱や骨や神経細胞など無数の組織の協調で成り立つ.工芸職人や運動選手は優れた能力を発揮できるが,どのような運動制御で実現されるかは未解明の点が多くある.本研究では運動に関する理論に基づき,一流の技能を生み出す優れた運動が力学系のフラクタル次元で特徴づけできると考え,投球動作で検討した.投球動作ではボールをリリースする時点が最も正確さを要する「要所」と考えられるが,実験では予想通りその時点でフラクタル次元が低くなった.課題の要所は一般に言語化しにくい知識すなわち暗黙知だが,今回の結果は運動の暗黙知を動作データから解き明かす基礎的な知見だと考えている.
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