研究実績の概要 |
縦型漏洩弾性表面波(LLSAW)デバイスは他のSAWモードに比べ位相速度および結合係数が高く,次世代移動体通信に必要な高周波動作の周波数フィルタとして有望である。しかし,従来SAWデバイスの圧電基板のみの構造では,LLSAW伝搬減衰が大きいため急峻なフィルタ特性が得られないことが問題であった。そこで,本研究では圧電基板上(LiNbO3,水晶,サファイア)への高音速かつ高圧電性をもつScAlN薄膜装荷による高位相速度,高結合係数,低伝搬減衰を両立するLLSAWデバイスの実現を目的としている。本年度は以下の研究成果が得られた。 1. 高位相速度,高い温度安定性を有する水晶,サファイヤを支持基板としたc軸平行ScAlN膜/高音速基板上を伝搬するLLSAWを理論解析することで,最適構造の探索を行った。支持基板を水晶とすることで,高位相速度,高結合係数,低伝搬減衰を両立することが分かった。また,水晶のカット,SAW伝搬方向が伝搬減衰に大きく影響を及ぼすことを発見した。特に,ScAlN膜/Xカット30°Y伝搬水晶では,本研究内で最小の伝搬減衰=0.0004dB/λとなった。さらにバルク横波がLLSAWから十分に分離することがこの低伝搬減衰の要因であることも示した。 2.昨年度構築を行った成膜装置を用いて,c軸傾斜またはc軸平行ScAlN膜の形成を行った。スパッタ粒子傾斜入射成膜法においては,c軸傾斜角度=10~50°をもつc軸傾斜膜の形成に成功し,結合係数増幅も確認した。一方で,イオンビーム照射を行ったScAlN膜では,目的のc軸平行膜は得られなかった。この原因としては,イオン源内加速電極の制限によりビーム照射加速電圧を300Vまでしか上げられなかったことが挙げられる。純AlNと同様にScAlN膜でも,c軸平行配向を得るためには加速電圧1000V以上が必要であると考えられる。
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