研究実績の概要 |
29年度は、資金調達コストについての論争と金融派生商品の公正価値の理論を調査した。 資金調達コストについての論争は、主に2012年以降リスク誌で繰り広げられた実務家と理論家の論争を調べた。実務家の主張は、"Funding beyond discounting: collateral agreements and derivatives pricing"(V. Piterbarg)、"Partial differential equation representations of derivatives with counterparty risk and funding costs."(C. Burgard and M. Kjaer)など、理論家の主張は、"The FVA Debate"(J. Hull,A. White)、"THE FVA DEBATE CONTINUED"(J. Hull,A. White)、"Funding, Collateral and Hedging: uncovering the mechanics and the subtleties of funding valuation adjustments"(A. Pallavicini, D. Perini, D. Brigo)などを調査した。また、日本銀行金融研究所のディスカッションペーパーである「金融危機後のOTC デリバティブ価値評価」(安達哲也)も参考にした。 金融派生商品の公正価値の理論の中で中心的な概念である無裁定について、"The Mathematics of Arbitrage" (F. Delbaen, W. Schachermayer)を参考にし、局所マルチンゲールの理論についても"A Benchmark Approach to Quantitative Finance" (E. Platen, D. Heath)、"Local Martingales, Bubbles and Option Prices"(A. Cox, D. Hobson)を参考に研究した。また確率解析の一般論に関しても"Brownian Motion and Stochastic Calculus"(I. Karatzas, S. Shreve)により学習した。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は最終年度であるため、論文の執筆を最終目標にする。 「現在までの進捗」にあるとおり、無裁定の数学理論を十分調査できなかったが、リスク中立測度の存在を認めて理論展開をすることにする。つまり、現金を自社の株価で測った価値が局所マルチンゲールになるような確率測度、すなわちリスク中立測度が存在することを仮定し、そのもとで金融派生商品の価格の理論を展開する。このような枠組みの中で金融派生商品の価格の性質を調べることが論文のテーマである。 今年度前半で基礎的な理論の整備を行い、後半ではその理論のもとでどのようなことが成り立つかを調べる。特に、売り手と買い手で価値が等しくなるか(価格の対称性)や、非同値な測度上での価格との比較、複製戦略や資金調達戦略の最適化、資本構造の最適化、ほかの理論との比較などが研究対象である。1月頃から研究を論文の形にまとめる作業を行い、今年度中に論文が完成することを目指す。 並行して、類似研究である"Hedging under arbitrage"(J. Ruf)、"On the hedging of options on exploding exchange rates"(P. Carr,T. Fisher,J. Ruf)などの調査を行う。 また、2018年度夏季のジャフィー大会に参加し情報収集や意見交換などを行い、2018年度冬季のジャフィー大会では発表できるように研究を進める予定である。
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