本研究では、資金調達コストを考慮したデリバティブ価格について研究した。 銀行が資金調達を行う際には、安全資産である国債の利回り以上の金利を課せられる。この差を資金調達コストといい、2008年の金融危機時にこのコストが顕著になったことを機に、デリバティブの価格に織り込むことが、実務的な慣例となった。デリバティブ価格の資金調達コストに相当する部分をFVA(Funding Value Adjustment)と呼ぶ。ただし、この慣例は実務的な観点から導入され、理論的な正当性に乏しく、実務家と理論家の間で論争が行われるなど、是非が問われていた。 本研究では、この論争の論点などを整理すること、独自の評価モデルを提案するという2つのことを行った。 前者は、「信州大学経法論集第6号(2019年3月)」に研究ノート「FVA論争について」として公表している。上述したFVAの論争は、実務家と理論家がそれぞれの立場・観点から主張を論じ、議論が平行線で分かりにくいものであった。そこで「FVA論争について」では問題点や論点を整理し、私見を交えて解説している。 後者では、資金調達コストを考慮したデリバティブの評価方法を提案している。ただし、この評価方法は実務で使われている評価方法とは異なり、独自のものである。実務で使われている評価方法は、資金調達コストに銀行が倒産する可能性が織り込まれていることを前提としているが、この前提と無裁定性の条件を両立することは難しい。そこで本研究で提案する手法はこの前提を仮定せずに、資金調達コストと局所マルチンゲール性を関連付け、ある種の無裁定なデリバティブ価格を導出する評価方法を考案した。この成果は、JAFEE2018年度冬季大会で発表し、詳細は予稿集にて公表されている。
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