イヌの変性性脊髄症 (DM) は慢性進行性の神経変性疾患で、現在まで有効な治療法は確立されていない。これまでの申請者の研究成果から、脊髄における神経炎症がDMの病態の主体であると考えられる。脊髄の免疫機構の中心的役割を担うのは、ミクログリアおよび末梢血から浸潤したマクロファージである。本研究課題では、DM発症犬から採取した末梢血単球を神経保護性マクロファージへ形質転換させ、再びDM発症犬の末梢血に戻すことで、DM発症犬の脊髄における神経炎症を抑制し神経保護効果をもたらす新規治療法の確立を目的とする。 健常犬の末梢血から、比重遠心法および磁気ビーズ法を用いて単球を分離した。分離した単球はヒトマクロファージコロニー刺激因子 (M-CSF) およびイヌインターロイキン-4 (IL-4) で刺激し、神経保護性マクロファージに形質転換した。その後、作製した神経保護性マクロファージを超常磁性酸化鉄 (SPIO) にて標識し、健常犬に投与して安全性を確認した。投与前、投与後5分、30分、2時間、8時間、24時間、3日、7日、2週間、1ヶ月および3ヶ月で身体検査を実施したが、特に異常は認められなかった。また、投与前、投与後7日および1ヶ月で血液検査を実施したが、特に変化は認められなかった。 DM症例 (stage4/4)に対してSPIOにて標識した神経保護性マクロファージの投与を実施した。症例は投与直後および投与後2時間の身体検査では特に異常を認めなかったが、投与後7日に斃死した。脊髄組織を鉄染色して神経保護性マクロファージの移行を確認したが、脊髄組織中にはSPIOを有した細胞は認められなかった。症例の死亡の直接的原因は明らかでないが、神経保護性マクロファージ投与後数日は全身状態に変化はなく、その後呼吸状態が悪化したとのことから、DMにより死亡した可能性が高いと考えられた。
|