研究実績の概要 |
(i) Anantharaman-Delarocheの著名論文(Trans.AMS, 2002)に掲示されていた未解決問題を二つ解決した.これはC*環への群作用に対する従順性の定義にまつわる問題である.従順性はもともとBanach-Tarskiの病理の原因として,von Neumannが特定した群の性質である.意味のある解析を行うためには従順性はなくてはならない性質である.Delarocheは,上記の論文において,C*環上の群作用の従順性を一応定義し,期待されるよい性質が従順性を持つ場合には保証されることを示している.しかし本人も論文で言及しているように,この定義は作用される環の中心上の力学系がとても大きいという性質が大前提となっており,満足のいく完全な定義とは言い難い.とくにこの定義では,非従順群は単純な環の上に従順に作用することはできない.私は今年度,このような定義が実際に強すぎる要請であることを,単純環への従順とみなすべきいくつかのよい性質を備えた作用を構成することで実証した.(特に上述した二つの未解決問題が否定的に解決される.) (ii)プレプリントarXiv:1702.04875v2に,次の定理を追加した.「ねじれを持たない可算無限群は,広いクラスの空間に, 亜群として識別されるよい極小作用をたくさんもつ.」極小作用は単純C*環の材料として,古くから研究されている重要な対象である.とくに去年度私やDavid Kerrが開発した技術により,一般の従順群の極小作用の接合積の構造解析が行えるようになってきたが,どのぐらい実際にそれらの群の極小作用が存在しているのかについてはこれまで言及されていなかった.一般に亜群のレベルで二つの作用を識別することは難しいが,われわれは固有値集合という新しい不変量を亜群に対して導入し,この困難を乗り越え,定理を証明することができた.
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