Notch シグナルは、発生分化、成体の幹細胞の増殖分化や免疫細胞のエフェクター機能などを制御しており、Wnt や Hedgehog などのシグナル伝達経路と並ぶ、重要な癌の分子標的である。申請者は、ショウジョウバエやマウスの正常個体において、Notch 受容体の O-グルコース糖鎖修飾が、Notch シグナルの活性化に必須であることを明らかにしてきた。O-グルコース糖鎖修飾はヒトにも保存されているので、Notch シグナルに異常の見られるヒトの癌でも重要な役割を果たしていると考えられるが、それを明らかにするための研究は行われていない。多くの種類の癌で Notch シグナルの異常な亢進が観察される一方、急性骨髄性白血病 (AML) や扁平上皮癌など、ある種の癌では、Notch シグナルの低下が発癌と悪性度の進展に関与している。ショウジョウバエにおいては、O-グルコース糖鎖のキシロースによる伸長は、Delta リガンドによる Notch の活性化を抑制する。申請者は、AMLや扁平上皮癌の発生と細胞増殖の亢進は、Notch1 へのキシロース付加の異常な亢進による Notch1 の不活性化に起因しているという仮説を立てた。本研究では、はじめに、HEK293T 細胞を用いて、Notch1 上の O-グルコース糖鎖付加のコンセンサス配列を有する、全ての EGF リピートにおけるキシロースによる伸長度を質量分析計を用いた解析により網羅的に明らかにした。 さらに、キシロース転移酵素遺伝子のノックアウト細胞を合計 4 種類作製し、Notch1 の活性化に対するキシロース付加の影響を解析した。その結果、O-グルコース糖鎖のキシロース伸長は、Notch1 の小胞体におけるタンパク質の品質管理と、細胞表面におけるリガンド結合の複数のステップで、その機能を制御していることが示唆された。
|